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Q&A こどものビザ編>Q1

Q1 戸籍から息子の名前を消されてしまいました

Q 私は日本人女性です。私はアメリカ人と結婚してニューヨークで暮していましたが、私達夫婦にはこどもができませんでしたので、施設から身寄りの無い男の子を引き取り、裁判所(ニューヨーク州)の承認を得て正式に養子として迎えました。

 それから家族は2年ほどニューヨークで生活していたのですが、夫の仕事の関係でこの程日本に移り住むことになり、私と息子が一足先に日本に戻ってきました。

 私はこの時までアメリカで成立した養子縁組を日本に届け出ていませんでしたので、帰国してすぐに本籍地のA区役所に問い合わせて特別養子縁組届を提出しました。そしてこの時にA区役所の職員さんから「戸籍を転籍すると養子の記載は消えますよ」というアドバイスを貰いました。

 私達夫婦が息子を引き取った時には彼はまだ2歳未満でしたので、私達のことを本当の親だと思っています。もちろんいつかは本当のことを打ち明けるべきだとは考えていますが、まだその時期ではないと思っています。

 そのため何らかの事情により息子が私の戸籍を見た場合にもショックを受けないように、A区役所の職員さんのアドバイスに従い、住所地のB市役所に転籍手続を行いました。

 それから数週間後、ノービザで日本に入国していた息子のビザの変更申請を行う必要からB市役所で転籍後の戸籍を取りましたところ、なんと転籍前に記載されていた息子との養子縁組の記載だけではなく、息子に関する記載の全てが消えていたのです。

 私は驚いてすぐに戸籍窓口に戸籍の記載が間違っていると伝えたところ、「間違いではありません。息子さんは外国人ですので、転籍後の戸籍には移記されません。」と言われて愕然としてしまいました。

 私は「養子縁組の記載が消える」というA区役所職員さんのアドバイスの意味を、戸籍を見ただけでは養子であることが分からなくなる(実子と見分けが付かなくなる)のだとと解釈したので転籍を行ったのです。もし息子に関する記載の全てが消えるのだと分かっていれば転籍などしませんでした。

 私はA区役所にも問い合わせて、元の戸籍に戻してくれるように頼みました。しかし既に転籍された戸籍を元に戻すことはできないとの回答でした。また、もし再度A区役所に戸籍を転籍した場合でも息子に関する記載は回復せず、単に今の記載ままの戸籍が移るだけだとも言われました。

 A区役所もB市役所も口を揃えて、「養子縁組の記載はA区役所の除籍謄本をにされているので入管手続はそれで足りるはず」と言います。手続き上は確かにそうなのかもしれませんが、多くの日本人は戸籍をたんなる証明書とは捉えておらず、家族結合の象徴のように感じているものではないでしょうか。

 外国人だから転籍後は記載がされないと言いますが、私の夫はアメリカ人ですが、転籍後の戸籍にも夫との婚姻の記載は残っていますので、制度自体に矛盾も感じています。私のような経験は他の人にしてもらいたくはないのですが、今後もこの制度が改まることはないのでしょうか。



A ニューヨーク州家庭裁判所の承認により成立した養子縁組ですので、実親と養子との親子関係が切れる(断絶型)養子縁組であり、我が国では特別養子縁組(民法第817条の2)に該当します。

 そして日本人が養親となり外国で成立した養子縁組ですので、本来であれば3ヶ月以内に在外公館又は本籍地の市区町村に報告的特別養子縁組届出をしなければなりません。

 さて、今回のお話ではA区役所の戸籍届出係員がしたアドバイスを誤解して転籍した結果、養子の記載が戸籍から消除されてしまったとのことですが、果たして誤解していたのは質問者さんの方なのでしょうか。

 今回の場合は養子が外国人ですが、これを養親及び養子が日本人である場合に当てはめてみますと、特別養子縁組届出を行う(特別養子縁組は家庭裁判所の審判により成立しますので、必ず報告的届出となります。)と戸籍へは

【民法817条の2による審判確定日】 平成○年○月○日
【共同縁組者】夫(筆頭者が夫の場合「妻」)
【養子氏名】甲山太郎
【養子の生年月日】平成○年○月○日
【届出日】平成○年○月○日
【特記事項】変更後の養子の氏名乙川太郎

 このように記載されますが、その後転籍した場合は特別養子縁組の記載は転籍後戸籍への移記事項ではない(戸籍法施行規則第37条第5号)ため、上記の記載の全てが消えます。そして筆頭者との続柄も「長男」や「長女」等の記載になっていますので、転籍後の戸籍を見ただけでは確かに実子なのか養子なのかの区別は付かなくなります(一方普通養子の場合は続柄が「養子」又は「養女」と記載されているので転籍をしても実子でないことは分かります。)。

 戸籍の運用がこのような仕組みになっている趣旨は、特別養子縁組という制度自体が国家(家裁)により実親と養子との親子関係を断絶させて新しい親子関係を創設するというものであり、原則離縁もできませんし、養子となる子の年齢も原則6歳未満と定められている等の厳格な要件を課しているものですので、ひとたび成立した特別養子縁組は、子の福祉の観点から可能な限り実子と同等に扱う必要があるためです。そのため当事者である養親及び養子が望まない限り養子縁組という事実を家庭内の秘密とすることを可能としているのです。

 では養子が外国人である場合はどうかというと、養子が外国人であろうとこれらの理屈は何も代わりません。子が日本人である場合と同等に家庭内の秘密として保護されるべきです。

 入管行政においても特別養子に付与される在留資格は、「日本人の配偶者等」ですし、これは外国籍の実子に付与される在留資格と同じものですので在留資格の種類によって子が養子であると知れることもありません(普通養子の場合は「定住者」が付与されますので、在留資格を見ただけで養子であると分かります。)。

 しかしながら外国籍の子の場合、日本の戸籍を編製することもできませんし、日本人養親の戸籍に入籍することもありませんので、その点で差異が生じます。特別養子縁組の記載がされているのは、日本人である養親にとって必要(相続人確定のため等)な記載なのであって、子が入籍しているのではないのです。

 そして前述のとおり特別養子縁組の記載は転籍後戸籍への移記事項ではない(戸籍法施行規則第37条第5号)ため、転籍後はその記載が消除された結果、入籍していない子ですので、戸籍を見ただけではそもそも養子がいる事実すら分からなくなってしまうのです。

 そのことは実はアメリカ人であるご主人について同じです。ご主人が質問者さんの戸籍に入籍しているのではなくて、単に婚姻の記載が質問者さんにとって必要(重婚の禁止、相続人確定のため等)なためされているに過ぎません。

 そして転籍をすればやはり婚姻の届出日(婚姻日ではありません。)、受理者、婚姻の方式等の一定の項目は移記されません。しかし配偶者が外国人であり入籍をしていない場合であっても、婚姻継続中であれば配偶者氏名、国籍、生年月日、婚姻日は移記事項とされているので、婚姻後に転籍をしたのだとしても、外国人配偶者の氏名を確認することはできます。

 日本の民法は養子(普通養子)については複数名持つことに何ら制限はないので、仮に既にいる養子の存在を知らないで後続の養子縁組をしたのだとしても、個々の法律行為として適法に成立するのに対し、婚姻の場合、婚姻中であることを知らないで後続の婚姻をしてしまうと重婚禁止規定に抵触することになり、瑕疵のある法律行為となってしまうことからこのような違いがあるのです。

 話をA区役所のアドバイスについて戻しますが、上記のことから、おそらくは当該職員が日本人同士の特別養子縁組と混同、又は知識不足により外国人特別養子についての移記事項を予見できずに、誤ったアドバイスをしてしまったのではないかと推察します。

 当該職員は自分の過ちに気がついた時に内心では「しまった!」とは思ったはずですが、だからと言って正式に非を認めることはしないでしょうし、こと戸籍を日本国民の身分関係を公証する公正証書であるという観点から考えれば、当該職員の適切でない言動により引き起こされた事態であるとはいえ、質問者さんが直接的な不利益を蒙ったという評価も難しいところです(A区役所やB市役所の説明のとおり、除籍謄本(除籍全部事項証明書)があれば全ての行政(又は司法)手続は問題なく行うことはできます。)。

 公務員の職務により国民が不利益を蒙った場合には国家賠償請求が可能(国家賠償法第1条)ですが、仮に提訴したとしても、そもそも当該職員のアドバイスが「公権力の行使」や「行政指導」には当たらないと思われますので、仮に当該職員に故意や過失があったのだとしても、訴えが不適法として却下されるおそれもあります。

 また、仮に裁判所が訴えの利益は認めたとしても、賠償を求めるべき損失については、精々入管手続等において除籍謄本を提出したことにより余分に支払うことになった交付手数料(1通750円)及び通信・交通費と、幾らかの精神的苦痛に伴う慰謝料くらいが認定されるだけではないかと考えられますので、責任追及の手段としてはあまり現実的ではないかもしれません(仮に勝訴と言える判決が出ても、A区役所が謝罪するとも思えません。)。

 後は転籍前の戸籍の記載に戻す手立てがあるかについても考えてみますと、戸籍に不適法の記載がある場合にそれを訂正するには家庭裁判所による戸籍訂正の審判が必要(戸籍法第113条)となりますが、今回は戸籍に入籍している者全員(今回の場合は質問者さんひとりだけ)の署名押印のある転籍届を戸籍筆頭者自らが届け出たものが受理されたのですから、残念ながら戸籍の記載が違法とは言いがたいものがあります。

 あえて主張するとすれば「当該職員の誤ったアドバイスにより転籍の効果について勘違いをしたのだから、当該届出は錯誤によって無効である」ということにでもなるのでしょうが、そもそも転籍届出という行為には届出をする意思さえあれば良いので、届出をする意思があった以上は届出意思の欠缺ということはできず、届出によって期待した記載が転籍後に反映されなかったのだとしてもそれは反射的効果に過ぎず、転籍届出を無効とする原因にはならないと考えます(いずれにしても何らかの訴訟行為を行う場合は弁護士の助言の下行うようにしてください。)。

 今回の事案と類似したものとして、死亡した者(日本人)の記載が戸籍から消除されてしまうという問題があります。これは例えば日本人の一家の子のひとりが死亡した後に転籍をした場合には、死亡した子の名前だけでなく、出生の事実を含め子についての一切の記載が転籍後戸籍に移記されない(戸籍法施行規則第37条第5号)というものです。
 
 親にとっては耐えられない事だと思います。子が亡くなったことに加え、戸籍からも抹消されてしまうことになれば、子の存在した事実を否定されたように感じることでしょう。

 そしてこのようなことは何も転籍をした時だけにおこるのではありません。子の死亡当時に本籍地の市区町村が戸籍の処理を旧来型の戸籍簿(簿冊式)で行っていたものを、その後戸籍処理を電算化した場合、電算化後に交付される戸籍全部事項証明書には転籍した場合と同じく子の一切の記載は消えているのです。(質問者さんのようなケースでもやはり子の記載が消えてしまします。)

 転籍をしたら死亡した子の記載が消えてしまうとの知識がある方であっても、戸籍の電算化については市区町村及び法務省の都合によって行われますので、国民の側からそれを阻止する手立てはなく(方法としては議会が電算化を承認しないということくらいでしょうか。)、現実として全国で悲しい想いをしている親御さんはたくさんいます。

 このような被害にあっている親達が全国で戸籍運改定を求める運動をしたり、国を相手に裁判を提訴したりしているようです。また、市区町村の戸籍事務員の全国的組織である全国連合戸籍住民基本台帳事務協議会が国民からの要望があれば、死亡した子の記載を電算化後の戸籍証明書に移記できるような運用改正を法務省に正式に要請しておりますが、現時点での法務省の回答は「要望には応じがたい」というものです。

 法務省の見解では「戸籍とは現に存する国民の身分事項について公証するものであり、親の感情を充足する機能は備わっていない。当該目的以外に子の死亡について確認が必要(代襲相続など)な場合は、改正原戸籍(電子化前の戸籍謄本)を取れば確認が可能である。」としています。
 
 このあたりの認識は法務省と国民との間ではいささか乖離があるようですので、立法的解決が待たれるところですが、現時点では裁判所から運用改正を後押しするような判例も出されていないようですので、国会でも法改正に向けた機運は醸成していないのが現状です。

 今後、更なる議論が深まるのを期待したいところです。

※ちなみに除籍謄本や改正原戸籍は閉鎖後80年間保存することが義務付けられています。多くの市区町村では独自の判断で100年ほどは保存するようにしているようですが、保存の目的はあくまで相続手続に必要なためですので、国民の感情を考慮した上での措置ではありません。
→その後法改正(平成19年改正戸籍法)により保存期間を150年に伸長するとが法律上明記されました。

※2012年3月31日現在、戸籍電算化が完了した全国市区町村数は1893のうち1723市区町村です。実に9割を越えているわけですが、北海道(予算の関係でしょうか)や京都府(こちらは伝統的に中央政府の圧力に屈しない気風なのでしょうか)は未だ5割程度の市町村しか完了していません。

※2012年4月現在、ずっと法務省の圧力に抵抗していた?(内情は知りませんが)千葉市(政令市ではここだけじゃないでしょうか)もとうとう電算化に向けて動き出したようです(総務課がメーカーとの作業を開始しているとのことですので、議会が承認した模様です。)。

※2014年1月11日、千葉市が戸籍処理電算化の指定を受けました(平成25年12月25日 告示第477号)




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