離婚後300日規定などのために無戸籍となった東京都内の1歳児と大阪府内の女性(24)に対し、外務省は2日、それぞれ旅券を発給することを決めた。無戸籍児の社会問題化を受けて、外務省は昨年6月に「旅券の名前記載は法律上の姓」などを条件に無戸籍でも旅券発給できるように省令を改正していた。無戸籍者への旅券発給は全国で初めて。
申請していたのは、300日規定で父親を「前夫」と戸籍上記載されるのを母親が避け、無戸籍になった1歳児(前夫が婿として母親の戸籍に記載されたため法律上の姓は母親姓)と、母親が出生届を出さなかったために無戸籍となった大阪府の女性(24)。大阪府の女性は無戸籍2世の子供の存在が発覚し、救済の過程で自身が無戸籍のまま夫との結婚が認められ、法律上の「夫の姓」で申し出た。
改正省令では、名前のほか、親子関係確定のための手続きを裁判所で行っていることや、人道上やむをえない事情で海外に行かなければならないことを発給の条件としている。
発給決定を受け、1歳児の母親は「教育の仕事をしており、海外に行っても仕事と子育てを両立させる足がかりができてほっとしている。しかし、子供が自分と同じ姓だから旅券を取れたが、もっと広く発給できるようにしてほしい」と語った。【工藤哲】
◇無戸籍者への救済につながらず
今回の二つのケースでは、旅券に記載される姓は「母親」や「夫」のもので、申請者にとって日常使っている姓と同一だ。外務省は「同様のケースについては、旅券を出していきたい」としているが、特殊な事情がある今回の発給は、多くの無戸籍者への救済につながっていないことを認識すべきだ。
改正省令では、300日規定などにかかる多くの場合、発給される旅券の名前の記載は母親の「前夫の姓」となる。しかし、改正から1年余りたつのに、こうした形での申請自体がなかった。これは母親の「前夫の姓」が当事者にいかに抵抗あるものであるかという事情を反映している。
無戸籍でも旅券発給を認めるよう求めてきた関西地方の無戸籍女性(25)らの場合は、母親の「前夫の姓」となるしかない。彼女らは自分と関係のない「前夫の姓」を旅券に刻まれる心理的な負担の重さを訴え続けている。【工藤哲】
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