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Q&A オーバーステイ・在留特別許可編>Q4

Q4 人身取引の被害者に該当するのでしょうか?

Q
 Q3の質問者です。引き続きご質問させて頂きます。人身取引について詳しく教えてください。また、私の妻(内縁の妻)は人身取引の被害者に該当するのでしょうか。

 ちなみに妻は日本に来る際にブローカーからは日本で高収入の仕事があると聞かされていましたが、それがホステスのことだとは知りませんでした。

 そして来日後はパスポートを取り上げられて監視下に置かれアパートの一室で女の子数人と共同生活することになりました。

 しかし私と出会ったのが来日してまだ4日目くらいであり、まったくというほど日本語が話せませんでしたので、売春の強要のようなことはありませんでしたし、特に暴力を受けたことはなく、給料も日給4千円貰っており、残りを借金返済に充てるというものでした。



A 平成17年6月16日、第162回通常国会において刑法等の一部を改正する法律が可決成立し、その中で刑法とともに入管法の一部が改正され、一部の規定を除き同年7月12日から施行されています。これにより人身取引の被害者保護の規定の整備が行なわれました。

 【入管法の主な改正点】
@ 人身取引等の定義規定の新設
A 一部の上陸拒否事由や退去強制事由から人身取引等された者を除くこと
B 人身取引された者を上陸特別許可及び在留特別許可の対象とすること
C 人身取引の加害者を上陸拒否及び退去強制の対象とすること

 この法律によって定義された人身取引とは、人に売春をさせてそのお金を巻き上げたり無理矢理働かせるために、暴力や脅迫を使ったり、嘘をついて騙したりすることによって、人を不法に支配下に置くことなどをいいます。

 例えば日本のデパートで働くことができると言われていたのに、日本に来てみると監禁されて売春をさせられたり、あるいは「手数料」と称して何百万円ものお金を請求され、それを返還するまで無理矢理働かされて給料もまったく払ってもらえない場合などが人身取引に当たります。

 人身取引の定義を簡単に説明すると以下のようになります。

【目的】(次のいずれかがあればよい)
ア 自分や第三者が金儲けをする目的(営利目的)
イ 被害者にわいせつ行為をしたりさせたりする行為(わいせつ目的)
ウ 暴力を振るったり傷つけたりするなどの目的(生命若しくは身体に対する加害の目
 的)

【行為】(次のいずれかがあればよい)
ア 暴力、脅迫、だまし、甘い言葉などにより人をその生活環境から不法に引き離して、そ
 の人の行動に制限を加えて自由を奪うこと(被害者が18歳未満であれば暴力、脅迫、
 だまし、甘い言葉等がなくても該当)
イ お金を支払ったり受け取ったりして、人の受け渡しをすること
ウ ア及びイの被害者を運び屋や売春業者に引き渡したり、人身取引ブローカーや運び屋から受け取ったり、隠れ家まで運んだり、人に知られないように隠しておくこと

 上記のいずれかの目的を持ち、いずれかの行為に及んだ場合を人身取引と規定しています。

 平成16年2月に行なった法務省入国管理局の人身取引の被害調査では、調査対象者3,517名のうち人身取引の被害者に該当する可能性が高いと認められた者の数は53名でした。(タイ人34名、フィリピン人16名、韓国人1名、インドネシア人1名、コロンビア人1名)

参考までに入国管理局が公表した人身取引の実例を紹介します。
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事例1 中南米人女性が本国において同国人女から日本でストリッパーとして稼動を勧誘
    され、偽造旅券により来日。来日費用として500万円の借金を課された。入国約1
    ヵ月後日本人男の紹介により各地のストリップ劇場で稼動を始めるが、劇場のオー
    ナーの指示により出演終了後強制的に客と売春等性的行為をさせられ、給料の大
    半を借金等のため徴収されていた。

事例2 東南アジア人女性が日本会社での稼動に勧誘され、寄港地上陸許可を受けて本
    邦上陸。同国人女と日本人男が出迎えそこで550万円の借金があると知らされホ
    ステスとして稼動し、売春もさせられた。

事例3 東南アジア人女性が同国人ブローカーから渡された偽造旅券を行使し来日。各
    地のスナックにおいて借金返済のため売春をさせられる。月20万円の報酬のうち
    5万円を本人が受け取り残金はブローカーが搾取。

事例4 東南アジア人女性2名が同国人ブローカーから日本でエンターテイナーの仕事が
    あると誘われ、稼動目的で他人名義旅券を行使し来日。稼動を始めたところ、客の
    前で裸で踊るよう命令されたり、食事は1日1回しか与えられず、終始監視がつい
    ていた。

事例5 東南アジア人女性が同国人のブローカーから騙され観光旅行のつもりで来日し
    たが、入国後引き合わされた日本人男性に500万円の借金があると言われ、売春
    で返済をせまられた。
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 次に今回の場合に奥様が人身売買の被害者と認められる可能性について言及します。

 まず奥様のケースは目的および行為において形式上人身取引に抵触するものであると考えます。しかしながら来日から日が浅く売春の強要まではされていなかったとありますので、程度の問題として果たして人身取引と認められるかは疑問です。

 さらにはすでに奥様は借金の返済を終えて自由になっています。この法律は現に自由を奪われている者が外部に救済を求めた場合を想定しているため、直接の適用はないと考える必要があります。

 これについては元法務省入国管理局付検事のコメントがありますので抜粋します。
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 「人身取引等により他人の支配下におかれて本邦に在留すること」とは、人身取引等により自己の生活環境から不法に引き離されてその行動に制限を加えられ自由を奪われることにより本邦に在留している状態をいいます。

 借金の返済等を終えるなどして他人の支配から自由になった後は「他人の支配に置かれている者」とは言えないものの、人身取引等の被害を受けたことが遠因となって、引き続き本邦に在留して資格外活動を行なったり不法滞在をするに至った場合には、そうした事情も入管法50条1項4号の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」に該当するか否かの判断に当たっての考慮すべき一要素となり得ます。
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 上記の点から直接人身取引の被害者としての在留特別許可を求めていくのは難しいと考えますが、現実問題としては在留特別許可の一般原則により審査において十分に考慮されうると思われますので、在留特別許可という結果には影響は出ないものと考えます。

 実際当事務所でも類似の案件を扱うことも多いですが、特にタイ人女性の場合には比較的速やかに在留特別許可となる傾向があると感じています。

※先の入国管理局による調査結果が影響しているのは明らかですが、同じく被害者の多かったフィリピン人についてはタイ人の場合に比べ、入国管理局側の対応に明らかな温度差があるように感じます。




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