Q 私は日本人男性です。私には中国人の彼女がいるのですが、その彼女がオーバーステイであったため入管に捕まってしまい、先日強制送還されました。
私達は交際を始めてから6ヶ月ほどたっておりましたが、まだ同棲はしていませんでした。このようなことになってしまいましたが、ふたりとも別れるつもりはなく近い将来に結婚して日本で暮らそうと考えています。
入管の職員からは5年間は日本に来れないと言われておりますが、友人の話では日本人と結婚していれば5年も待たずに再度日本に来られるらしいとのことです。
私の彼女はいつ日本に来ることができるようになりますでしょうか。
A 確かに当該女性はは退去強制処分を受けて出国していますので、入管法の規定により出国の日より5年間上陸禁止とされるわけですが、通常は額面通り5年間待つことはせず、しかるべきタイミングで「上陸特別許可」を求めていくことになります。
上陸特別許可とは、「上陸拒否事由に該当するが、人道上の特別の理由等により法務大臣がする特別の上陸許可」のことです。すなわち在留の「特別許可」と同じく上陸の「特別許可」の制度が存在するということです。
上陸特別許可の申請要件(後述する認定申請)は2012年12月現在においては公開されていません(一方、在留特別許可はガイドランとして一定の基準が公表されています。)が、実務においては「OSについては退去強制から2年が経過しており、かつ、日本人と婚姻してから1年が経過していること」、刑法犯についてはそれに加え「執行猶予期間が満了していること」というほぼ定着した運用がされています。
現在の上陸特別許可の基準は表向き非公開ですが、もともとこの運用の根拠にあるのは、平成9年5月の入管法改正の際に参議院でされた付帯決議によるものと言われています。
それまでの入管法では退去強制された外国人の上陸禁止期間は1年間でしたが、それが法改正により5年(再犯者などは10年)に伸長されました。その際に参議院法務委員会が「法務大臣は再上陸の可否について日本人の家族などには特段の配慮をすること」と注文をつけた上で立法した経緯があります。
今のところ入管はこの付帯決議を尊重した運用をしているといえます。日本人の配偶者については法改正前と同じく1年では短すぎるし、かといって5年では特段の配慮をしたことにはならないので、2年を妥当としたものと考えられます。
当事務所でも「自分で3度も申請したがだめだった」というような相談を多く頂きますが、話を聞くと退去強制後直ぐに申請を繰り返していたり(申請要件を満たしていない)、帰国後の交流がしっかりと立証されていない方がやはり多いです(中には違反の程度が重くなかなか再上陸が認められない方もいます。)。
手続きの方法ですが、これも在留特別許可と同じく申請行為ではないので、上陸特別許可申請というものは存在しません。したがって表向き行うのは一般の外国人配偶者招へいのための手続きである在留資格認定証明書交付申請(もちろん要求される立証の程度は一般のものとは異なります。)です。
入管が上陸特別許可が相当と判断した場合は在留資格認定証明書が交付されます。この時交付される認定証明書には「7−1−4」と刻印されますが、これは一般の認定証明書にはないものです。「7−1−4」とは入管法第7条第1項第4号(上陸審査についての条文)のことなのですが、入国審査を担当する入国審査官がひと目で上陸特別許可の案件であることがわかるようにするためのものです。
この上陸特別許可を前提とした認定証明書の交付は地方入管局長には委任されておらず、申請は必ず法務本省に進達されるので結論が出るまでに4か月弱かかります(政治的配慮を必要とするなど一部を除き在留特別許可の裁決は地方入管局長に委任されているのとは異なります。)。
無事に認定証明書が交付された場合は、有効なパスポート、認定証明書及び配偶者査証を所持して来日すると、空港での上陸審査において特別審理官により「口頭審理」が開かれて、法務大臣の採決により特別に上陸が許可される運びとなります。
上陸審査での一連のインタビューは形式的なものに過ぎず(すでに法務大臣が入国事前審査において許可相当と判断しているためです。)、認定証明書が交付された当時の事情に変更がない(離婚や婚姻関係の破たんなど)場合は常に許可されます。
上陸特別許可がされると、その場で「日本人の配偶者等」の在留資格が付与されます。それ以降は正規在留者と同じように在留が可能です。
一般の方との違いとしては、上陸特別許可がされた場合でも、上陸拒否事由に該当していることには変わりがないので、再上陸の際にいちいち上陸特別許可が必要となることです(彼女さんについては退去強制処分より5年が経過するまでの期間)。
従前は再入国許可を得たうえでの一時的な出入国についても、再入国の際に形式上口頭審理を開き法務大臣裁決が必要だったのですが、外国人本人にとっても入管にとっても無意味で多大な負担となっていたことから、現在は法改正により、「通知書」という行政文書を所持する者については一連の上陸審査手続きを省略することが可能になっています(該当者はみなさん通知書の交付を受けられます。)。
このように上陸特別許可は制度化されていているわけですが、入管の職員に上陸禁止期間を聞けば「5年」と言うでしょうし、上陸特別許可の事を尋ねてもせいぜい「法務大臣が特別に上陸を許可するこは有り得る」と言う程度の説明をするだけだと思います。法律の説明としてはけして間違いではありませんが、彼らの職分上、運用の機微に触れる説明はできない(するつもりがない)ことは理解しておく必要があります。
現実的には上陸特別許可により再上陸する方は多くいます。例えば就労の在留資格を持つ外国人女性とOSの外国人男性のカップルなどの場合、摘発されると在留特別許可の可能性は絶望的ですので一旦は帰国することになりますが、その後女性が「永住者」の在留資格を取得した場合(あるいは日本国に帰化した場合)は、先に送還された男性についても「永住者の配偶者」(帰化した場合は「日本人の配偶者」)という身分が該当しますので、日本人の配偶者に準じて上陸特別許可の該当性が出てきます。
また質問者さんのように一方が日本人のご夫婦(又は婚約者)で、在留特別許可が認められずに帰国した場合にも当然に行っていくべき手続きの流れです。むしろ法律の字句通り再上陸を5年間待つ必要性は考えにくいです。
彼女さんについても帰国後1年以内に婚姻をして、かつ、帰国日より2年が経過した時に認定申請をするのがよろしいかと存じます。
もっとも申請においては帰国後の夫婦の交流の実績であるとか、再上陸の必要性などをしっかりと立証できていなければなりません。したがって交流の実績が乏しい事案については認定証明書が不交付処分となる可能性が高いと言えます。不交付となった場合には再申請をすることになりますが、やはり審査期間が4か月弱かかってしまいます。
ちなみに認定証明書を所持せずに「短期査証」などをもって来日しようとしても、認定証明書を所持しない上陸拒否事由該当者は上陸特別許可はせず上陸を拒否するものと定められているので、確定的に上陸拒否の憂き目にあいます。必ず認定証明書が交付されてから来日するようにしてください。
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