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出入国管理及び難民認定法等の一部改正
法務省入国管理局参事官室
はじめに
新たな在留管理制度の導入や外国人研修制度の見直し等を内容とする「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律案」が、本年7月8日、可決・成立し、同月15日に平成21年法律第79号として公布された。その概要等は以下のとおりである。
1 改正の概要
(1)新たな在留管理制度に係る措置
現行の在留管理制度は、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)により、法務大臣が、外国人の入国時や在留期間の更新時等に、外国人から必要な資料の提出を受けるなどして審査を行ういわゆる「点」の情報把握が中心で、在留期間の途中における事情の変更は、市区町村における外国人登録制度を通じて把握している。他方、現行法上、外国人については、住民基本台帳制度の適用がないことから、市区町村は、事実上、外国人登録を行った外国人を住民として把握し、その情報を各種行政サービス提供の基礎としている。
しかしながら、我が国の国際化が進み、様々な目的を持って新たに来日したいわゆるニューカマーが増加し、ニューカマーの中には、国内に安定した生活基盤がないため、外国人登録に際して正確な申請を行わなかったり、申請なくして頻繁に転居したり、あるいは再入国許可を受けて本国に帰国したまま連絡が途絶え、再入国するか否かが不明な者等も少なからず現れるに至った。
こうした外国人の構成の変化やそれに伴う外国人の行動様式の変化により、現行の入管法と外国人登録法(以下「外登法」という。)による二元的な情報把握の制度では、これらの者の居住実体等を正確に把握することが困難になってきており、出入国管理行政上の観点からも、外国人に適切な行政サービスを提供するという観点からも問題が生じている。
このような中、政府は、平成17年7月、犯罪対策閣僚会議の下に「外国人の在留管理に関するワーキングチーム」を設置して、検討を行い、平成19年7月には、犯罪対策閣僚会議に検討結果が報告された。また、平成19年6月に閣議決定された「規制改革推進のための三か年計画」においては、「在留外国人の入国後のチェック体制の強化」の中に、「外国人登録制度の見直し」が盛り込まれ、遅くとも平成21年通常国会までに関係法案を提出することとされた。
法務省においても、平成19年2月、法務大臣の私的懇談会である「出入国管理政策懇談会」に検討を依頼し、平成20年3月、同懇談会から、法務大臣に対し、報告書「新たな在留管理制度に関する提言」が提出された。
また、平成20年4月から、総務省及び法務省が共同で、「外国人台帳制度に関する懇談会」を開催し、同年12月には、その報告書が公表された。
以上のような経緯から、法務省において、外国人登録制度を含む在留管理制度の在り方について抜本的に見直した結果、現行の入管法と外登法による情報把握の制度を改め、我が国に中長期間在留する外国人を対象に、その在留管理に必要な情報を正確かつ継続的に把握する制度を構築しようとするものである。
具体的には、我が国に中長期間在留する外国人については、@上陸許可、在留期間の更新許可、在留資格の変更許可等の許可に伴う在留カードの交付、A外国人から法務大臣への在留期間中における変更事項の届出、B外国人の留学先、研修先等の所属機関から法務大臣への情報提供といった制度により、法務大臣が当該外国人の在留状況を正確かつ継続的に把握することとなる。
このようにして正確に把握された中長期間在留する外国人の在留状況に関する情報は、住民基本台帳法の一部を改正する法律により新設される市区町村の外国人に係る住民基本台帳に反映される。また、正確な情報を把握することにより、これらの外国人については、在留期間の上限の伸長や再入国制度の緩和といった利便性を向上させるための規定を整備した。
ア 法務大臣が必要な情報を継続的に把握する制度を構築するための措置
(ア)法務大臣は、入管法上の在留資格をもって在留する外国人のうち、@3月以下の在留期間が決定された者、A短期滞在の在留資格が決定された者、B外交又は公用の在留資格が決定された者、Cこれらの外国人に準じたものとして法務省令で定める者を除いたものを中長期在留者として、基本的身分事項、住居地、在留資格・在留期間等を記載した在留カードを交付することとし((以下、法律名を付記しない場合は改正後の出入国管理及び難民認定法の規定を示すものとする。)第19条の3第1項、第19条の4第1項)、これまで在留資格の変更許可、在留期間の更新許可等在留に係る許可の際に旅券になされていた証印は、中長期在留者にはなされずに、在留カードの交付をもってこれに替えることとされた(第20条第4項第1号、第21条第4項、第22条第3項)。新たな在留管理制度では、中長期在留者は、就労活動を行う際や、各種の行政サービスを受ける際に、在留カードを提示することによって、自らが適法な在留資格をもって我が国に中長期間在留する者であることを簡単に証明することができるようになる。
なお、在留カードの偽変造の有無を容易に確認できるようにするなどの必要があるため、在留カードにICチップを搭載できることとしている(第19条の4第4項)。
(イ)中長期在留者は、住居地を定めた日から14日以内に、住居地の市区町村の長を経由して法務大臣に対し、住居地を届出なければならないこととした(第19条の7第1項、第19条の8第1項)。
(ウ)中長期在留者は、在留カードの記載事項のほか、一定の就労資格など所属機関の存在が在留資格の基礎になっているものについては所属期間の変更等を、配偶者としての身分を有することが在留資格の基礎になているものについては配偶者との離婚又は死別を、法務大臣(住居地については市区町村長の長を経由。)に届け出なければならないこととした(第19条の9第1項、第19条の10第1項、第19条の16)。
(エ)法務大臣が外国人の所属機関から、中長期在留者の受入れの状況に関する事項の届出を受ける旨の規定を設けた(第19条の17)。
(オ)法務大臣は、対象外国人に関する情報の継続的な把握のため、必要がある場合には、届出事項について事実の調査をすることができるものとした(第19条の19第1項)。
(カ)婚姻を偽装して在留特別許可を受ける事案等に対処するため、偽りその他不正の手段により在留特別許可を受けたことを在留資格の取消事由とした(第22条の4第1項第5号)。また、日本人の配偶者及び永住者等の配偶者が配偶者と離婚又は死別したときや、婚姻の実態が存在しないときなど配偶者の身分を有する者としての活動を行っていない場合にまでその在留を継続させるのは相当でないことから、正当な理由がある場合を除き、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留していることを在留資格の取消事由とした(同項第7号)。さらに、住居地の届出義務の履行を担保し、外国人の居住実態を正確に把握するため、正当な理由がある場合を除き、上陸又は転居後90日以内に住居地の届出をしないこと及び虚偽の住居地を届け出たことを取消事由に追加した(同項第8号〜第10号)。
(キ)在留カード及び特別永住者証明書の偽変造等の行為を行った者(第24条第3号の5)及び各種虚偽届出や申請義務違反により懲役に処せられた者(同条第4号の4)を退去強制の対象とし、在留カード及び特別永住者証明書の偽変造等の行為に対する罰則を新設した(第73条の3〜第73条の6、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(以下「入管特例法」という。)第26条〜第29条)。
イ 適法に在留する外国人の利便を向上させるための措置
(ア)在留期間の上限を5年に引き上げることとした(第2条の2第3項)。
(イ)再入国許可の有効期限の上限を5年に伸長するとともに(第26条第3項)、有効な旅券及び在留カードを所持する外国人は、原則として1年以内の出国については、出国に際して入国審査官に再入国の意図を表明すれば、再入国許可を受けたものとみなし、同許可を必要としないこととした(みなし再入国許可制度、第26条の2)。これは、従前から再入国許可の見直しに関する種々の要望がなされていたところ、新たな在留管理制度の導入によって、中長期在留外国人に関する在留状況の正確な把握が可能となり、再入国許可に際して在留状況を確認する必要性が減殺されるため、外国人の利便性向上のために行ったものである。
ウ 特別永住者に係る措置
(ア)法務大臣は、特別永住者に対し特別永住者証明書を交付することとした(入管特例法第7条第1項)。なお、特別永住者については、特別永住者証明書及び旅券の携帯義務がなくなった。
(イ)特別永住者について、再入国許可の有効期限の上限を6年に伸長するとともに、みなし再入国許可について有効な旅券及び特別永住者証明書を所持する場合には、原則として許可を受けることなく2年以内の再入国を可能とした(入管特例法第23条第1項・第2項)。
(2)外国人研修制度の見直しに係る措置
研修・技能実習制度については、研修生・技能実習生を実質的に低賃金労働者として扱うなど、不適正な受入れが増加している現状に対処し、研修生・技能実習生の保護の強化を図るため所要の措置を行った。
具体的には「規制改革推進のための3か年計画(改定)」(平成20年3月25日閣議決定)において、実務研修中の研修生に対する労働関係法令の適用、技能実習生に係る在留資格の整備が盛り込まれ、遅くとも平成21年通常国会までに関係法案を提出するよう指摘されたことを踏まえ、関係規定を整備したほか、受入れ団体の責任を明確化し、併せてブローカー対策として退去強制事由を新設するなどしたものである。
ア 在留資格「技能実習」の新設
これまでの在留資格「研修」の活動のうち、@実務研修(いあゆるOJT)を伴うものについては、(国等が受け入れる場合を除き)雇用契約に基づき技能等修得活動を行うことを義務付け、労働基準法や最低賃金法等の労働関係法令上の保護が受けられるようにし、また、A技能実習生の安定的な法的地位を確立する観点から、現在、独自の在留資格がなく、在留資格「特定活動」(法務大臣が個々に活動内容を指定する在留資格)として在留が認められる技能実習活動について、その在留資格を整備することとし、これらの2つの活動を行う在留資格として新たに在留資格「技能実習」を創設した(別表第1の2)。
これにより、従来、在留資格「研修」により入国して実務研修をを行い、技能実習に移行後は在留資格「特定活動」で在留していた研修生・技能実習生は、今回の改正後は、在留資格「技能実習」で入国・在留し、雇用契約に基づいた技能等修得活動を行うこととなる。
イ 受入れ団体の責任の明確化
今回の改正による団体監理型での技能実習は、現行の技能実習と異なり、受入れ団体の監理と責任の下に行うこととし、そのことを明記した(別表第1の2)。
ウ ブローカー対策
ブローカー対策として、許可された受入れ機関以外の機関に研修生等をあっせんした者や、事実と異なる在職証明書を作成するなど不実の記載のある文書の作成等に加担して研修生等を入国させた者を新たに退去強制できるようにした(第24条第3号・第3号の4)。
(3)在留資格「留学」と「就学」の一本化に係る措置
平成20年1月に、福田内閣総理大臣(当時)の施政方針演説において、「留学生30万人計画」が提唱されたことを受け、同年7月には、文部科学省を始めとする関係省庁により、「留学生30万人計画」骨子が策定された。
法務省入国管理局は、「留学生30万人計画」の実現に向けた出入国管理行政の在り方について幅広く有識者の意見を伺うため、法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会において議論していただき、本年1月には、同懇談会における「留学生及び就学生の受入れに関する提言」が法務大臣に報告された。
同提言を踏まえ、今回、外国人留学生の安定的な在留のため、在留資格「留学」と「就学」の区別をなくし、「留学」の在留資格へと一本化した(別表第1の4)。これにより、例えば、日本語学校を卒業し、引き続いて大学に進学する外国人留学生は、従来は要していた「就学」から「留学」への在留資格変更の手続を行う必要がなくなるなど、外国人留学生の利便と安定的な在留に資すると考えられる。
(4)入国者収容所等視察委員会の設置
警備処遇の透明性の確保、入国者収容所等の運営の改善向上を図るため、入国者収容所等の視察等を行う入国者収容所等視察委員会を設置することとした(第61条の7の2第1項)。
(5)拷問等禁止条約等の送還禁止規定の明文化
退去強制を受ける者の送還先に、拷問等禁止条約第3条第1項及び「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」第16条第1項に規定する国を含まないことを明確にすることとした(第53条第3項第2号・第3号)。
(6)在留期間更新申請等をした者の在留期間の特例に係る措置
在留期間の満了の日までに申請した場合において、申請に対する処分が在留期間の満了までにされないときは、当該外国人は、その在留期間の満了後も、当該処分がされる日又は従前の在留期間の満了の日から2ヶ月を経過する日のいずれか早い日まで、引き続き当該在留資格をもって本邦に在留することができる規定を設けた(第20条第5項、第21条第4項)。
(7)上陸拒否の特例に係る措置
退去強制歴があるなど上陸拒否事由に該当する外国人であっても、例えば、日本人との婚姻により、既に上陸特別許可を受けたことがある者など、再入国の度に、入国審査官、特別審理官、法務大臣と3段階の手続を経る上陸特別許可により上陸を認めることが合理的とはいえない場合がある。
そのため、法務大臣が相当と認める場合には、3段階の手続を経ずに、上陸を認めることができることとした(第5条の2)。
(8)乗員上陸の許可を受けた者の乗員手帳等の携帯・提示義務に係る措置
乗員上陸許可書を所持する外国人の本人確認をより的確に行うため、乗員上陸の許可を受けた者について、乗員上陸許可書に加えて旅券又は乗員手帳の携帯・提示義務を課すこととした(第23条第1項第2号)。
(9)不法就労助長行為等に的確に対処するための退去強制事由等の整備に係る措置
不法就労助長行為等に的確に対処するため、不法就労助長行為に係る退去強制事由等の整備を行った(第24条第3号の4・第4号ヘ(1)、第73条の2第2項)。
2 施行日
新たな在留管理制度の導入に係る1(1)の規定は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から、1(2)〜(4)、(6)、(7)及び(9)の各規定は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から、1(8)の規定は、公布の日から6月を超えない範囲内において政令で定める日から、それぞれ施行される。また、1(5)のうち、拷問等禁止条約に係る規定については、公布の日から施行されており、「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」に係る規定については、同条約が発行する日から施行されることとなる。
3 附帯決議
この法律が衆議院及び参議院の法務委員会において可決される際、附帯決議が採択された。
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